コードネームの歴史について

20151212 翻訳 Shimaden
20151219 修正 Shimaden
2016 112 修正 Shimaden

 この文書は、 ハープシコード関連のサイト のメーリングリスト HPSCHD-L 投稿された、コードネームの歴史についての話を、メーリングリストの管理人 Ben Chi さんのご厚意で掲載させていただいているものです。

 原文はこちら [HPSCHD-L] Re: 'baroque' ps **** and chord symbols


Subject: Re: 'baroque' ps **** and chord symbols
From: James <[log in to unmask]>
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Date: Sat, 5 May 2007 06:47:21 -0700
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 うわ!全体的に複雑なのですね。想像していた以上です。私に解明できなかったわけです。あまりに多くの異なる種類の音楽をかじっており、色々な方面から知識が入ってくるので、ここに出てきたシステムはすべて知っています。ただ、それぞれのシステムはよく似ていて本当に紛らわしく、Johnさんが時間を割いて整理してくださらなかったら絶対に理解できなかったと思います。

 

 理論分析の記号の話は特に興味深いと思いました。娘婿が教えてくれたのと同じものだと思います。彼も「数字付き低音」と同じものだと確信していました。娘婿は音楽理論の授業を取っているのですが、彼の話を聞いていて、その授業で「数字付き低音」と呼んでいるもののことだろうという印象を受けたのです。

 

 いまはもうただ納得するばかりです。

 

JB

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Subject: Re: 'baroque' ps **** and chord symbols
From: John Howell <[log in to unmask]>
Reply-To: Harpsichords and Related Topics <[log in to unmask]>
Date: Fri, 4 May 2007 14:53:46 -0400
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> James は書きました:

> 私か投稿したあと、数字付き低音のことですが、娘婿の話に興味をそそられて探していたら、ウィキペディアの「Chord (music)」の記事で和音のさまざまな記譜法について詳しく議論されているのを見つけました。通奏低音の節に、通奏低音は現代ではほとんどが教育の場で和音の分析を記すのに用いられているとあったのを見て、SOL (訳注:ソルフェージュ?)で通奏低音を使うのはおそらく和音分析のためだろうと思いました。娘婿はJ.S.バッハのコラールを完全なバスの旋律線を示しつついくつか取り上げ、数字付き低音の記譜法を使って「分析」して見せました。これは和音分析を学ぶよい方法ではないだろうかと思い、TODO リストに入れました。彼が主張するには、数字付き低音はポップ・ミュージックで使われる「チャート」と同じ情報を持っているとのことです。

  完全に同じ情報だとは言えません。似ている点は、数字付き低音もコード・シンボルも和声の速記法であり、和声の進行の輪郭を描くものであり、分析ではなく演奏のために作られているところです。大きく異なる点は、数字付き低音は調号に依存しているところです(つまり中心音が確立しており、半音の変化音は数字に記号を付すことで示される)。コード・シンボル chord symbols(現代のシステムでの正しい用語)は調号から独立しており、常に、調号や中心音に関係なく和声構造を記述します。そしてもちろん、伴奏者に和声の枠組みを提供する点でも似ていますが、両者が完全に同じ情報を持っているというのは決して正確な理解ではありません。

>  ウィキペディアの同じ記事には「チャート」についての記述もあり、多くのポップ・ミュージシャンが、和音進行や和音進行とメロディ・ラインとのタイミングを示すのに使っているということです。そのことはずっと前から知っていますし、どちらも詳細を学ぶのには苦労しませんでした。コード・シンボルは数字付き低音とは独立に発展してきたのだろうか、というのには思いをめぐらせています。

  「チャート」とは編曲ものの楽譜--あなたがミュージシャンの前に実際に置くもの--を指す業界用語です(もちろん作曲された楽譜のことも言いますが、商業音楽の大多数は編曲ものです)。数字付き低音は数字を上下に書いて和音を表すのですが、「コード・シンボル chord symbols」はそれの 20 世紀版です。コード・シンボルが数字付き低音と完全に独立して発展してきたことはその通りですが、どちらも同じようなニーズに対して解決策を提供します(すなわち和声をコンパクトに速記すること)。

 

 コード・シンボルの起源を探るために、20 世紀初期の Tin Pan Alley 社のポピュラー音楽の楽譜を少し見てみましょう。楽譜の売り上げを最大にするために、初歩的な技術を持つ人なら誰でも弾けるようにピアノ伴奏は意図して簡略化されました(書かれたとおりに弾く品行方正なジャズ・ピアニストは実際には決していませんが--シューベルトなら弾くかもしれません!!!)。ピアノがいつも伴奏に利用できるとは限らないので、さらに多く人が魅力的に感じるように、楽譜にギター・ボックス(コードの指使いが6 弦上に見やすくシンプルに表示してある)、バンジョー・ボックス(4 弦のテナー・バンジョーのための同様の TAB 譜)、あるいはウクレレ・ボックス(同じく 4 弦だが調弦が異なる)を載せるようにしました。

 

 さて、--ここからが重要です!--アルファベットのコード・シンボルは、ただ誰でも楽譜を読めるようにするためだけに TAB 譜に取り入れられたのです!

 

 コード・シンボルのシステムを考案したのは出版社であって音楽理論家ではないので、満足のゆく完成したシステムとして示されることはなく、表記法はひとつひとつ増えていき、今世紀末でもなお増え続けています。もっともシンプルなコード・シンボルは、1900年代と1910年代にもっともよく使われた和声構造を表します。大文字は長三和音を表します(C = c, e, g)。数字の拡張部分(ふつう上付き文字)は長三和音の構成音にはない付加音を示します(C7 = c, e, g, b--これは常に属七です。長七を表すにはもっと複雑なコード・シンボルが必要となります--あるいはC6 = c, e, g, a)。小文字の付加部分は長三和音が変化することを示します(CmまたはCmiまたはCmin = c, e, g; Caug = c, e, g; Cdim = c, e, g; Cdim7 = c, e, g, b♭♭)。

 

 和声的なボキャブラリーが豊かになるほどコード・シンボルも複雑になります(Cmi7(9 11) = c, e, g, b, d, f♯)※。'60年代を通して「バート・バカラック・コードBurt Bacharach chord」(属音のベース上のサブドミナント・コード)が用いられ、それを表すために分数表記(F/G = g, f, a, c)を発展させる必要に迫られました。ベースが転回位置を用いてよりクリエイティブに演奏されるようになると、分数表記は転回位置を表すのに利用されるようになりました。このシステムは、(すべてではないが)ジャズの発展とともに徐々に発展を続けています。第3音を持たないロックの「パワー・コード」は「C5」のように示されます。c, d, g と演奏されるコンテンポラリー・クリスチャン・コードは「C2」と表されます(初期は「C(add 9)」という表記でしたが、このシステムでは「9」は「7」を含むことを暗示させるため、この表記に取って代わられました)。

 

訳注 和声音楽的にはやや奇妙なテンションだが、モーダル・ハーモニーではありうる。

 

 いくら強調しても足りませんが:数字付き低音もコード・シンボルも、和声をどのようにリアライズ※1するかについてまったく何も言っていません。バロックの数字付き低音をリアライズするには、バロックの指使いのパターンを知っていなければなりません。コード・シンボルをリアライズするには、ポップスやジャズのフィンガリングのパターンを知っていなければなりません※2。決して忘れてはならないのは、入門書に書かれているのは入門者向けのリアライズ方法であり、熟達者のための技術ではないということです!

 

訳注1 リアライズ:和音記号を読み取り実際に音にすること。
 2 「バロックの指使いのパターン baroque fingering patterns」、「ポップスやジャズのフィンガリングのパターン pop or jazz fingering patterns」:それぞれのジャンルにおける、音楽的な語法・語彙の意味だと思われます。

 

 これ以外の2つのシステムも使用できる範囲に制限があります。理論分析用の記号(大文字および小文字のローマ数字)は、演奏ではなく分析に使うように意図されており、調号と中心音とに結びつけられています。そして「ナッシュビル表記Nashville Notation」は、以上のような記号に基づいたものですが、かつて理論のクラスを取ったことのあるミュージシャンに使われています!

 

 そうそう、私は編曲のクラスを教えているのですが、学生にこのような和音記号をはっきりと理解させ、理論の授業での実践を通じて、それぞれの和音記号がどのように違うかを理解させなくてはなりません!活発なジャズ・ボーカルのプログラムを行ったことがあり(最初のあの厳しい予算削減の前)、我々のジャズ・ボーカルの教授は、学生たちに彼らが歌うすべての歌のリード・シートを用意させました。そこには調号と拍子記号、メロディ・ライン、コード・シンボルが書かれており、経験豊かなジャズ・プレーヤーが直ちにリズム・セクションで伴奏をするのに必要な情報がすべてが含まれています。

 

John

 

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John & Susie Howell
Virginia Tech Department of Music
Blacksburg, Virginia, U.S.A 24061-0240
Vox (540) 231-8411  Fax (540) 231-5034
(mailto:[log in to unmask])
http://www.music.vt.edu/faculty/howell/howell.html


 John Howell准教授は201353日(金)に逝去されており、現在は追悼のためのページがVirginia Tech Department of Musicにあります。

 1936417日、ワシントン州エバレット生まれ。1979年にVirginia Tech music facultyに加わり、Blacksburg arts communityのコミュニティにも参加。19791993年に「The New Virginians」を指導し、数え切れないほどの人々を楽しませがらプロフェッショナルの意識感覚とコミュニティの重要性を説いたとのことです。